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2008年7月号 |

「瞬く間」 |
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中村良樹 シアトルデジタルフォトグラフィ
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冬のシアトルは退屈なんかしていられない。冬になると全米から白頭鷲(アメリカン・ボールド・イーグル)がスカジット・リバーに集まって来るのをご存知だろうか? 多くの鮭が、この川を上って無事産卵した後に寿命を終える。それを貴重な冬の栄養源として狙って集まって来るのがアメリカの国鳥として知られる白頭鷲だ。この付近には毎年11月の終わりから1月の中頃までたくさん集まり、特に12月の前半から中頃が一番多いと言われている。スカジット・リバーのロックポート付近ではこの白頭鷲を眺めるラフティング(ゴム製いかだ)による川下りツアーが盛んだ。およそ2時間の川下りで多くの白頭鷲はもちろん、いろいろな野生の動物や鳥、そして素晴らしい景色を楽しめる。もちろん、白頭鷲を絵のような写真に撮るのが私の願望である。
最初にこのツアーを経験したのは数年前になる。I-5の230番出口を出て20号線(ノース・カスケード・ハイウェイ)を東に向かい、約40分でロックポートの町の川沿いの公園に到着。ここでツアーの案内人(ガイドさん)や他の同行者と合流して、用意された貸し切りバスでさらに上流のマーブルマウントまで運ばれる。そこから事前に準備されたゴム製いかだに乗り込むのだ。ひとつのいかだに7、8人のツアー客でこれをガイドさんが手漕ぎで操るのであるが、時々ツアー客の応援が必要で、客には手漕ぎのオールが渡される。私は写真を撮りたいので無理をお願いして漕がずに済むことにしてもらった。いよいよ出発だ

レンズ焦点距離37mm, ISO100, F6, 1/160秒
いた! 遥か向こうの木の枝に留っているのは確かに白頭鷲。乗客一同喜びの歓声を上げる。ガイドさんが鷲さんの近くに向かうよう舵を取る。 時刻はおよそ午前11時半であった。あとから聞くところによると、鷲さん達は朝早く朝食を取り、その後に消化吸収のためと、できるだけ栄養を保存するため木の枝にとどまってじっとしているのだそうだ。 エネルギーの消費を抑えるため、じっとしているのだ。それを見て喜んでいるのは我々であった。いかだが近付いてとどまっている木の下を通過してもまだじっとしている。これぞシャッターチャンスとばかりカシャカシャと写す。しかし、動いているフニャフニャした不安定で狭いゴム製いかだから結構高い所に留まっている鷲さんを捉えるのはなかなか難しい。それでも何とか狙いを付けてカシャカシャ、何枚かは見られる写真が撮れた。しめしめ。

レンズ焦点距離400mm(200mm+2.0倍Extender)ISO320, F5.6, 1/320秒
しかし、何か物足りない。最初は木に留まっている鷲さんが見られただけで興奮し満足していたが、飛んでいる姿を撮りたくなって来た。ほとんどじっと木の枝にいるのであるが、中には突然飛出したり、予想もしなかったところからひょこっと飛んできたりすることがある。そんな時は慌てて写すが大概は間に合わず、ピントが外れたりぶれたりしてしまう。まして、構図を考えて写す余裕などない。フィルム代を気にせず何枚でも撮れるデジタルカメラの強みでとにかく撮りまくる。すると中には、まずまずのものが撮れる時もある。が、狙い通りの写真というには程遠い。狙った時に狙ったように飛んでくれればなあ、などと夢を見る。

レンズ焦点距離600mm, ISO500, F10, 1/400秒
それから数年後、去年から今年にかけて撮影仲間と共に再度挑戦することになった。カメラもレンズも最初の時より性能が上がり、良い写真が撮れそうな予感がして来たからだ。 しかも、よく調べて見るとゴム製いかだの代わりにしっかりしたアルミのボートでのツアーがあった。それも暖房用のプロパン・ヒーターも備わってる。雪が降る冬の寒い中などでの撮影には大変ありがたい。椅子や足場がしっかりしているし、乗客が漕ぐ必要もない。カメラ機材を置く余分なスペースもある。いかだよりも舵取りが利き行きたいところに動きやすい。冬の白頭鷲観覧撮影ツアーにはこのアルミボートはゴム製いかだの数倍も快適で、特に写真を撮るのに大変都合が良かった。特に私の選んだガイドさんは腕利きで頼りになった。私の希望に沿ってボートを動かしてくれ、写真を撮りやすくしてくれた。さらに、できるだけ朝早くから撮りたいと言う希望にも合わせて通常より早い時間からのツアーをセットしてくれた。これで良い写真が撮れなかったら自分の腕がないということだ。

レンズ焦点距離19mm, ISO100, F4.5, 1/80秒
世の中広しと言えども白頭鷲が集まる付近の川下りツアーがある場所は限られている。白頭鷲を近くから見たり、撮影したりするのには川下りツアーが最高の条件であることがわかった。普通は鷲に近付く場合、足音などからかなり遠くにいても逃げ出して飛んでいってしまい、絵になる写真は撮りにくい。ましてや至近からの撮影などほとんど不可能に近い。いかだやボートで漂流していくと、鷲さん達には私達が単なる漂流物と見えるのかかなり近付いても逃げない。比較的低い枝に留まっている鷲さんや、川岸でえさを食べている鷲さんにある程度近付くと、さすがに脅威を感じて飛び立つ。ここを狙わない手はない。よく観察すると、多くの場合、飛立つ前に体重を軽くする。近付き過ぎてこの白い液状爆弾を受けないように要注意。これが飛び出す前兆で、これを知っていると構図を狙いやすい。しかしなかなか良い写真が撮れないのであった。腕が足りないのである。

レンズ焦点距離400mm(200mm+2.0倍Extender)ISO3200, F7.1, 1/640秒
ここでやめてしまっては悔しい、と計4回もツアーに参加した甲斐があって、ついに一生に一度あるかないかの大変な好機に恵まれたのである。3回目のツアーは朝早く出発、朝霧も手伝ってどんよりした暗い中の川下りであった。かなり離れた下流の対岸で何頭かの鷲さん達が朝食の最中であることに気が付き、ガイドさんにお願いして近くへ向かってもらった。1頭の鷲だけが比較的近くまで行っても、逃げずに朝食を続けていた。持っている最高の明るいレンズで最適な設定をして飛び立つのを待った。ボートの上から動きの早い飛んでいる鷲さんをきちっとした絵として撮るためには、シャッタースピードを1/1000秒に設定する必要があることをその前の何回かの失敗で経験として学んでいた。レンズは200mm F2.0 のとても明るくシャープなレンズに1.7倍のテレ・コンバータを付け、実質340mm F3.4という設定だ。この明るいレンズでも1/1000秒を得るためにはISO感度を3200に上げる必要があった。この時のカメラはISO3200でも十分良好な画質を確保できた。動きの予測しにくい相手なので秒間9コマの高速連続撮影に設定した。これ以上の機材や設定はない。いつでも飛んで良いよと心の中で声をかけた時、普通はボートの近付く方向と反対側に逃げて行くところ、この時は近付く方向に飛び出してくれたのであった。夢中でシャッターを切り続けた。

レンズ焦点距離340mm(200mm+1.7倍Extender)ISO3200, F3.4, 1/1000秒
この時の4枚の連続写真を縫い合わせてできたのが上の写真で「王者の行進」と名付けた。 写真とは瞬間を切り取る芸術であるとも言われる。この写真は1頭の白頭鷲が0.5秒の「瞬く間」に2回羽ばたきして数メートルを移動した姿を切り取った絵〔写真〕である。 白頭鷲の姿をこのような形で捉えた写真は見たことがないと思うがいかがだろうか。今の自分にはこれ以上の写真を撮るのは難しいと思えるくらいすべてがうまく行った結果である。幸運に感謝。もちろん、これに味を占め、次の機会にはもっと良い絵を撮りたいと決意を新たにしたことは言うまでもない。
自宅から2時間ちょっとのところでこんな素晴らしく、不思議で、荘厳で、美しい体験ができるのは大変に幸せである。白頭鷲さん達、ありがとさん。来シーズンも大いに頑張るぞ。
ほかにも沢山あります。www.SeattleDigitalPhoto.com SDPhoto Gallery K-Seriesをご覧ください。パネルにした写真をご希望の方は y.n@SeattleDigitalPhoto.com へご連絡ください。
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