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2007年9月号 


シアトルに住むお父さんの独り言
(「予期せぬ侵入者」の巻)

雨宮敏徳 日本無線(JRC)
 

笑える話娘が日本から送ってくれた韓流ドラマに集中していたらしい。いつごろから話し掛けられたのか気付かない旦那も悪いが、どうせ聞いてはいないと独り言のような小声になっていった女房もいけないと、とんちんかんな返答をしたのを覚えている。耳を傾けていれば「昼間になると、何かガサガサと音がする」「外からでなく、どうも家の中みたい」といった内容だったようだ。新婚当時だったら「空気口から家の中に鳥が舞い込んだのかもしれない」「心配しなくていいよ。調べてみるから」と返事をしていたはずだが、昭和は遠くなりにけり。 仕入れたばかりのサザンのCDをボリュームいっぱいにかけ、鼻歌交じりの運転で、早い帰宅をした日があった。あいにく家人は出掛けたらしく留守だった。気を取り直して、いつものように冷蔵庫からビールを取り出して、リビングへ足を向けると、ランプが置かれた低いテーブルと床が埃をかぶっていた。息子がサッカーの練習で疲れて土足のまま家に入って来たにしても、これほどに汚れることはない。掃除機の中に溜まった埃を取り出す時に要領が悪くゴミが外に出てしまったが、約束の時間に遅れそうなのでそのまま外出したのだろう。掃除機は大の苦手なお父さんだが、埃の中でビールを楽しむ訳にもいかず、仕方なく掃除機のスイッチを入れた。

ニューオリンズの空港からホテルへ移動中に携帯電話が鳴った。液晶の表示から家からの電話だとすぐわかった。何だろうと携帯電話を耳に近付けるや否や、「ダクトから埃が吹き出している!」「何かが、壁と壁の間を行ったり来たりしている!」と一気に話し掛けてきた。犯人は鳥やねずみだったのか。出張先だから、どうすることもできない。「不動産屋さんに、電話して!」と電話を切った。息子の友達の家のリビングの暖炉から鳥が飛び出してきた話と、ねずみが屋根裏に棲み込んだ友人の話が頭を離れない。ホテルでの大事な商談前のプレゼン手直し作業への気力は失せた。顧客へのプレゼン中でさえ、頭の中では鳥や、ねずみが動き回っていた。東京本社には報告しなかったが、シェブロン向けの大型案件を失注した理由は、納期遅れや価格が高過ぎたのではなく、この1本の電話のせいだった。

肝心なときに亭主はいないとこぼして頼み込んだかは不明だが、頼りになる不動産屋さんのルークは1時間以内に来てくれたらしい。早速リビングの吹き出し口を確認し、大きなゴミ袋を出すようにと言われたそうだ。長年の経験から鳥が入り込んだと察しがついたようだ。フレームが外されたので、恐る恐る近くへ行ってみると、通気口にたまった埃にまぎれて鳥の羽も見えたそうだ。光のある方向に飛び立とうとする鳥を捕獲しようと試み、1時間もの格闘の末3回目に成功したらしい。ゴミ袋の中でもがく鳥を小脇にルークは裏庭に出た。ゴミ袋の口を開くと埃にまみれた鳥が元気良く飛び立って行った。

出張から戻ったその日は、初夏の乾いた風がさわやかに吹き抜けていた土曜日だった。庭のベンチに読みかけの本とビールを持ち込んだ。餌を探しにきた鳥たちのさえずりを聞きながら留守中の鳥の捕り物話を聞いていると、変わった模様の鳥がいる。「あれよ!」と言われた方向を見ると羽毛が見覚えのある埃で覆われている。どこから侵入したのかは教えないといったすまし顔のツバメの親戚似の鳥だ。侵入犯はお前だったのか。

この話を酒飲み友達のお父さんにしたら、そうした被害はいろいろありますが、イサクワの自分の家にも災難がありましたと話を続けられた。自分の家の芝生は手入れをしても青さが劣ると、思い切って畳替えならぬ、「芝生替え」をしたそうだ。ところが隣の芝生より良く見えるとひとりご満悦もつかの間、ある朝寝起きのコーヒーを庭先で楽しもうと外に出ると、5枚も芝生がめくれていた。それも、誰が見ても故意にひっくり返されたとわかるひどい状態だったそうだ。ご近所に迷惑をかけた覚えもないし、人から恨みを買うようなことは何もしていない。ひとつ気になるのは雨宮を家に招待して深夜までカラオケをしたことぐらい。それにしたってお隣だってバーベキューで騒いでいることだってあるじゃないかと、その晩は日本酒を片手に、芝生のために支払ったレシートの金額を飽きるまで見つめていたそうだ。

翌朝丁寧に戻した5枚の芝生の様子を見に行くと、今度は違う場所がひっくり返されていた。ご近所との波風立てるのは止めましょうと言う奥様を振り切り、両隣をノックし、こんなことがあったとそれぞれに話に行ったそうだ。季節の変わり目になると、新設したばかりの芝生は反り返ることもあると説明を受けたがどうしても腑に落ちない。今回被害にあった芝生はコーナーがはみ出したくらいの程度でなかったからだ。今度は、コミュニティーのセキュリティーオフィスに、いたずら好きの住人が住んでいるとクレームを付けに行ったそうだ。それなのに、数日後にまたもや芝生のひっくり返しがあった。夜通しパトロール隊の編成を奥様にお願いしたが、無下に断られて諦めた。仕方なく、出勤前に芝生を元に戻す作業が日課となったそうだ。

顔見知りのご夫婦が家の前を通り掛かった。彼らの名前は知らないが、いつも決まった時間にウォーキングをしている。丹精込めた育てた稲がすずめにやられたという調子で芝生の話をしたそうな。そしたら意外な答えが返ってきた。「この地域は、ラクーンが多い。夜行動物だから、人間様が寝静まってからお出ましさ。簡単に裏返しにできる植えたばかりの芝生は、ミミズを取りやすいと親から子へ伝授されているらしい。」

<プロフィール>

横浜に長女と次女、ベルビューに妻と長男の5人家族。
1996年10月 英国現地法人JRC(UK)でパブ通い
2001年8月 新宿本社で歌舞伎町通い
2003年4月 名前だけのシアトル支店長
2004年4月 やっと自動車運転免許取得
2005年6月 お手伝い役の次女が本帰国
2006年5月 エバーグリーン男声合唱団入会

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