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横浜にいるふたりの娘の様子を見に行かなければと言い残し、最愛の息子と旦那様をシアトルに置き去りにして、熱海の温泉に出掛けてしまった方が今回の主人公です。
だらしのないお父さんのために、「モーゼの十戒」でなく、留守の不安感を浮き彫りにした「亭主への十懐」のメモが目に触れるように冷蔵庫にしっかりと張ってありました。
1. 携帯電話は、車のキーと同じところに置くと忘れません。
2. 子供のサッカーの汚れ物は、その日に洗うように。
3. 出掛けにガレージの電気を消すこと。
4. アルコールは控えめに、車の運転に気を付けて。
5. 補習学校の宿題を必ずやらせてください。
6. 買い物は、ファクトリアのスーパーでまとめ買いをするように。
7. ……
辺りが暗くなってくると夕食のことで頭がいっぱいになり仕事が手につかなくなるお父さんです。マック、タコベルとピザハットへの巡礼くらいしか浅知恵が働きません。そのファストフード店巡りが軌道に乗り掛けたころです。ふと窓に映った父子の姿は、「幸せのちから」(女房に逃げられた亭主が息子を連れて)の映画のシーンそのままでした。翌日から持ち帰り弁当に作戦を変えたのは言うまでもありません。そのテリヤキシリーズにも「飽きたなぁー!」とつぶやいたサッカー少年の息子には、「ゴールを決めたら、お寿司屋さん行き!」と言い聞かせて1週間が経ちました。
肝心の守れと言われた項目は、
1.「携帯電話は、車のキーと同じところに置くと忘れません」
携帯電話といえば……
どちらとも重そうな「スーツケースとご婦人」を空港で降ろし、自宅へ戻りました。息子の送り迎えのスケジュールを聞いていなかったと、あわてて女房の携帯電話に電話しました。呼び出し音が聞こえた途端に、先ほど空港に送ったばかりの奥様の携帯電話がリビングで鳴り出しました。出発の前夜に、日本では使えない携帯電話なのに、その充電器までも荷物の中に後生大事そうに入れ、肝心な本体を忘れていったのは、そなたかぁ〜!
携帯電話は肌身離さず、ちゃんと会社に持っていっております、はい。
2.「子供のサッカーの汚れ物は、その日に洗うように」
洗濯といえば……
お父さんの休みの日は、パジャマ姿のまま、テレビをつけながら、新聞を広げ、冷めたコーヒーを飲みながらのんびりとした朝を過ごします。その後、タンスから出したその日に着替える衣類をわざわざリビングまで持って行きます。寝室でなく、家族が集まるリビングで着替えを始めるのがお父さんの変わった習慣だからです。いざ着替えようとすると、決まってその着替えが、どこかに消えてしまう怪奇現象が何度も、何度も起こりました。さっきまで足元に放り投げてあった着替えは? 洗濯好きの奥様が、出してきた着替えを汚れ物と思い洗濯機に放り込み、それが中でクルクルまわって……。
「鬼のいぬ間に洗濯」と羽を伸ばしたいが、洗濯はちゃんとやっております、はい。
3「出掛けにガレージの電気を消すこと」
電気と言えば……
父親と息子は毎朝7時10分ごろには家を出て会社に向かいますが、そのころには既に母親は、お友達とウォーキングに出掛けております。それからがタレント並みのスケジュールとなります。学校へ行って授業を受けて、その足で昼に友達に会って、午後はお稽古事をふたつ続けます。それから自宅で花の教室で、夕方に息子をサッカーに送ったついでにヨガの最後のクラスに出掛けます。明るいうちのお出掛けだから、暗くなると、お父さんは、外灯もつかない誰もいない家に「ただいま」となります。ところが、ガレージから家に入ると、ご主人お迎えの外灯は消えていても、どの部屋の電気もこうこうとついている。おまけにテレビまで……。
電気はちゃんと消して出掛けていますが、テレビのリモコンが3日目から行方不明となってしまいました、はい。
4「アルコールは控えめに、車の運転に気をつけて」
車の運転と言えば……
自宅に電話をしても大抵は家におりませんので、連絡が必要な時は奥方の携帯電話に掛けることもあります。時には緊急な用件もあるのに、今まで電話に出たのは数回しかありません。「運転中は危ないから両手を離すわけに行きません」と、もっともな言いわけを申します。ある日息子を助手席に乗せて買い物に行く途中に、グミを食べていた息子が、「お父さんも食べる?」とハンドルの前にグミを差し出しました。何気なく受け取ると、「夫婦で似ているよね!」「え?」どんな急なカーブに差し掛かっても、母親は必ず手を出すそうな……。
車で出掛ける時は、お酒は一滴も飲んでおりません、はい。
5.「補習学校の宿題を必ずやらせてください」
宿題と言えば……
「学校の宿題はやったのか?」は、次女への毎日の父親からの挨拶代わりでしたが、長男はサッカーのことにしか関心がないので、言うだけ無駄です。その息子が珍しく、宿題をやってなかったとブツブツこぼしているので様子を見るとクロスワードの穴埋めをしておりました。アメリカの高校生には変わったものが宿題に出るのかと妙な感心をしましたが、なんと、母親の学校の宿題を息子がやらされていたのだった……。
補習学校は春休み中です。宿題はありません。はい
6.「買い物は、ファクトリアのスーパーでまとめ買いをするように。」
買い物と言えば……
高知県と同じ名前のバッグ屋さんでの話。買う前の品定めに3個もバッグを手にブル提げて店内を動き回るのは、全部欲しいという意思表示か、あるいは3個のうち、せめて1個だけは、買ってくれというデモンストレーションなのか。なぜかその日は何も買わずに店を出ました。1週間後、留守電にあったのは、その店からのメッセージ。「ご来店ありがとうございました。ご注文の品物2点が入荷しました」。個人消費がシアトルの景気を支え……。
買い物はスーパーに行きました。冷蔵庫にはビールが所狭しと、テーブルには息子のお菓子がレニア山のようになっています、はい。
7.「△□○?!%」
7番目の戒めからは、ご令室様のお叱りに触れそうで、「君子危うきに近寄らず」と筆を止めます。
わが世の春を謳歌中のお父さんからの報告でした。
追記、「ピンポーン」の音で玄関を開けると、そこにはご近所にお住まいの会里ちゃん、幸子ちゃん、則子ちゃんがかつてのキャンディーズのように微笑みかけて立っていました。熱海の温泉から、餓死していないかの確認をするような依頼が入ったのかなと思い、一生懸命に「我々ふたりは生存しています!」の笑顔で迎えると、3人の手にはそれぞれ一品料理。春が来た。
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<プロフィール>
横浜に長女と次女、ベルビューに妻と長男の5人家族。
1996年10月 英国現地法人JRC(UK)でパブ通い
2001年8月 新宿本社で歌舞伎町通い
2003年4月 名前だけのシアトル支店長
2004年4月 やっと自動車運転免許取得
2005年6月 お手伝い役の次女が本帰国
2006年5月 エバーグリーン男声合唱団入会 |
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