庭に前の住人が植えた家庭菜園の一角があります。他人様が苦労して育てたきゅうり、トマトの収穫時になって我家が引っ越して来ました。お陰様で毎日収穫を楽しんだ上に、寂しい食卓に一品増やすことさえできました。その中でひとつだけ食卓に上がらなかったものがあります。それが、これから話す問題の中国菜です。スーパーで売っている中国菜とは、少し見かけが異なります。茹でれば良いのか、炒めれば良いのか、あるいは食用でないのか。とりあえず我が家のシェフは茹でてみたそうです。そのうち白っぽい汁が出てきて、スーパーで買った中国菜とは全く様子が違う、と夕飯時に説明を受けました。
お隣は中国ご出身の一家で、年配の方も一緒に住まわれております。思い立ったらと、早速庭から数本を引き抜いて、娘とその母親は隣家に向かいました。庭でバーベキューの準備をしていた私も、玄関先でチャイムを押しているふたりの使節団を目で追いました。食べ方、料理方法をあつかましくも聞いてる、聞いてる。
ところがなかなか戻って来ません。もしかして、この中国菜は、漢の時代の国花みたいなものか、何かの宮廷儀式などに使う由緒ある中国菜で根元から引き抜くものでないと、お小言をちょうだいしているのか。あるいは、キッチンに入って実際の料理法をご教授いただいているのか。バーベキューの火が焼くのに頃合が良くなってきたかなと感じるほど時間が経った後、ふたりが手に何も持たず、心なしか力を落として戻って来ました。
ふたりがチャイムを押して出て来たのが年配のご婦人、までは良かったとふたりの弁。庭にこうした中国菜がいっぱいあるけど、これは食べられるのか?料理法は?と聞いたところ、唯一英語がわからないご婦人だけのお留守番だった。仕草さから、訪問自体は歓迎されている。持っていった中国菜を手にしてニコニコしながら奥に引き込んだ。間違いなく、これから中国4000年の歴史のなかで、母親から娘にと伝えてきた家庭料理の秘伝が明らかにされる。奥に引っ込んでしばらく出て来ないのも、これを料理する特別な鍋を出しているに違いない。玄関先で待つこと10分。娘から母親に「もしかして、中国菜のお裾分けだけと勘違い?」「@-----!」
問題はこれからです。中国広し、四川料理、北京料理なんでもござれ、場所が変われば中国菜も違うはず。言葉が通じておりませんので、食べられるとわかって受け取ったのか? 隣の変な日本人が食べている中国菜だからと信頼して受け取ったのか? この中国菜もどきが食用でないのに、隣家からの贈り物として食してしまったら。中国系一家6名、原因不明の食中毒とシアトルタイムズの見出し! それから1週間、窓際にこの隣家の様子を恐る恐る伺うおかしな日本人家族がおりました。
反日デモに頭をお抱えの諸氏のために、お皿いっぱいの手作り水餃子をお返しにいただいたことを、付記させていただきます。