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私を産んでいただいたお母様へ、
バージニア・メイソン病院で健康診断を受けました。本社の人事部より、「年1回の健康診断を履行していますか」と2年前から問い合わせを受けておりましたが、運動もせず、暴飲暴食で父親のお腹が出てきたのを気にする娘達からの忠告と、担当医は若くて優秀な女医さんだと愛妻からの強い後押しもあって、今回やっと重い腰をあげ病院に出向いたのです。単純なお父さんですから、「素敵な女医さんがお待ちですよ」を本気にして、ビニールに入った新品の下着類を前の晩から女房に用意してもらったり、出かける前に歯を磨き直したりしてウキウキ気分で車のエンジンをかけ出かけたのでした。
受付で知らない単語ばかりが載っている質問用紙を渡されました。記入に四苦八苦しながらソファーで待っていますと、白衣を着た若いモデルさんのような女性から名前を呼ばれました。さすがアメリカは違う、病院独特の雰囲気を感じさせないように、これは心憎いまでの演出だと感心しながら、自分の前を歩く白衣の後姿に釘付け状態で3歩下がって彼女の後を追いました。
診察室に入ると、その彼女から質問を受けました。あの狭い個室の診察室でふたりだけですよ。それも顔を近づけて話してくるからたまりません。受付で「午後には事務所へ戻らなければ」と余計なことを言ったことを悔やむほど、こんなきれいな女医さんであれば、深夜まで診断していただいて構いませんと不謹慎なことで頭がいっぱいの幸せなお父さんでした。よっぽど年をごまかして言おうかと悩むほどブロンドが艶かしかったのですが、「ここは病院だ!」と自分に言い聞かせ、既婚であることや、アルコール飲酒量を含め、聞かれていないことまでも全て正直に答えました。
聴診器をあてられて診察が始まったら、事務所のスタッフに教えてもらった軽いジョークを言って気を引こうと、受けを狙う絶妙のタイミングを待ち受けました。ところが、変形パジャマみたいなエプロンを渡され、「ドクターが来ますので、これに着替えて!」とドアを閉めて行ってしまったのです。
浦島太郎の竜宮城から、アルカトラス島の牢獄の舞台へ瞬時に変わった場面と言った方が適切でしょう。「地団駄を踏む」とは、こうした状況を言いたいがために生まれた言葉なのでしょう。舞台にひとり残されたお父さんは、不安でいっぱいとなりました。5分後にはそれが現実となりました。すごい勢いでドアを開けたのは、身の丈60寸はある髭先生でした。鬼看守のような容姿の先生のご登場です。「運動もせず、酒浸りで、腹が出て!」とご指摘を受ける覚悟をし、素直にまな板の鯉となったのは言うまでもありません。
受付に提出した調査用紙と血圧の結果を見ながら早口の英語で質問攻めが続きました。最後に「指を入れてみますか?」と言いながら患者に了解を取る仕草をされました。雰囲気から口や、鼻、耳辺りじゃないことがわかります。まさかと思いながらも「Yes」と日本人的返答をしてしまいました。すると「前かがみになって!」と先生の哲学的なお言葉です。「まさか?」。背中側が開くようにエプロンもどきの服を着るように言われた準備はこういうことだったのか。女医さんのために女房が準備した勝負パンツをずらすようにご指示を受けました。今頃気付いても遅すぎました。丁寧に断るにはwouldを使うのか、could でよいか、あるいはmayかと悩んでいると「あ?」。3人の子供の父親として威厳も何もあったものではありません。母からいただいた大切な身体です。けがれなく純潔を守り続けたのに、齢50歳を過ぎて男の大事な操を失った瞬間でございました。アメリカ国民は50歳を過ぎると、この高尚な儀式を皆受けると説明がありましたが、それはもう上の空でございました。
追伸
定期的な健康診断によって、病気の早期発見ができます。会社にとっては、これが医療費の負担の軽減につながるわけですが、私は長生きをするためにと単純に考えております。ふと、友達の健治オジサンが言っていたありがたいお言葉を思い出しました。「健康管理をしっかりしなければ、いけませんね」「最近は、健康第一!」「健康のために何でもします」「だからこそ、健康のためなら、死んでもいい」
| <プロフィール>
横浜に長女と次女、ベルビューに妻と長男の5人家族。
1996年10月 英国現地法人JRC(UK)でパブ通い
2001年8月 新宿本社で歌舞伎町通い
2003年4月 名前だけのシアトル支店長
2004年4月 やっと自動車運転免許取得
2005年6月 お手伝い役の次女が本帰国
2006年5月 エバーグリーン男声合唱団入会
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