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2007年1月号 


シアトルに住むお父さんの独り言 
(いろんな奥様がいるんだぁーの巻)

雨宮敏徳 日本無線(JRC)
 

笑える話「いろんな旦那様がいるんだぁーの巻」をお読みになった複数の旦那様から、自分を今日あらしめた恩人=女房についても書いてくれないと片手落ちだとご指摘を受けました。それではと、話を伺いましたら、どこのお父さんも置かれた境遇は筆者だけではないと実感しました。お父さん達が声を荒げてまで語ったシアトルに住む主婦物語の始まりです。

朝、車に乗り込もうとドアを開けかけたら「行ってらっしゃい。頑張ってね!」と優しい言葉。実に10年、いや20年ぶりだと思った瞬間、ガレージに靴を取りに来た息子に女房が話しかけていたのだった。お父さんは、数十年ぶりの精神的時空移動を会社に向かう自動車の中で味わったのです。

奥様専用の目覚まし時計(娘が以前使っていたもの)が鳴っても、片手で消してそのまま眠り続け、10分後に設定してある旦那様の目覚まし時計が鳴ると、目を閉じたままで「鳴ってるよ!」となります。シアトルに来てからの朝一番のお言葉と言えば、「おはよ」でもなく、「行ってらっしゃい」でもなく、この「鳴ってるよ!」になるのです。

奥様はその後、旦那様に最初にシャワーを強くおすすめします。日本では一番風呂の奥様だったのにどうしたのでしょう。そうです、先にシャワーを使わせて、自分が使う時には最初からお湯になるという奥様のご配慮です。シャワーと言えば、そこではお父さんが知らない儀式がなされているのをご存知ですか。お父さんのシャンプー後の抜け毛が1本でも壁に張り付いていると、「あ、お父さんの汚い髪の毛が……」とシャワーの先を壁に向け「お父さん一掃作業」のありがたいご行為は、この地シアトルでは、朝一番から始まっているのです。

人生に疲れた顔をして頭にバスタオルを巻きつけた奥様はゆっくりと階段を下ります。自分と子供の脱ぎ捨てたパジャマ類を脇に抱えていますが、寝ぼけまなこをこすりながらですから、必ずその内のひとつを階段の途中で落とします。どこの家でも階段に得体の知れないパンツや片方の靴下が落ちている不可解な現象は、こうした奥様の仕業だったのです。あれ、だらしのない旦那様の脱ぎ捨てはどうしたのでしょう? お父さんの脱ぎ捨てのパジャマはご主人がお帰りになるまま、脱いだそのままの状態で置かれています。ご本人と、ご本人に所属するすべてのものが、刑事ドラマの殺人現場の死体と同じ扱いで放置され続けるのです。

「朝は、勝手に何か食べて行っているみたい」と、奥様が電話でご友人に話をしているのを聞いたことがあります。ご子息の弁当にはうまそうな鶏のから揚げが入って、旦那様の弁当には、前の日に子供が食べなかったおかずが入るのです。これが自分の人生の定めだと、お父さん達はこの地シアトルで悟りました。事故もなく家に戻り、病気もなく、ただ家にお金を入れてくれれば、後は何も旦那様には期待などしていないからです。シアトルに来る途中で大多数の奥様は大切な「愛」や、「敬い」を飛行機から太平洋にお捨てになったようです。それでは、ご非難を覚悟で複数の素敵な奥様達をご紹介します。

素敵な奥様 <その1>
この奥様は日本のバラエティー番組のビデオを、旦那の寝ている夜中と旦那が会社に行った昼間に見ているらしい。ビデオの鑑賞中は電話にも出ないほどご集中されるとか。

その奥様は、ある日家に戻って玄関の前で呆然と立ち尽くしました。家の鍵と携帯電話を、キッチンのテーブルに置き忘れたのです。携帯があれば、遠いエベレットにお勤めの従順なご主人に電話して、大事な会議を中断させ、鍵を開けに自宅まで来てもらえるのに、その日だけは電話をかける携帯も家の中。機転が利く奥様は、学校へ車を走らせました。授業中の息子さんをクラスから呼び出し鍵をゲットして、続きのビデオを見たそうです。

素敵な奥様 <その2>
この奥様は、スーパーに買い物に行っても、ワインとビールのコーナーで30分は動きません。その間冷蔵庫の中身を知り尽くした旦那様が、卵、肉、野菜、牛乳、それに洗剤、ティッシュなどをワゴンいっぱいにお買いになるらしい。

その奥様は、お友達も多くご自宅で昼間からパーティーもよくなさるらしい。家の前の複数の車を見て、来客だなと察知した旦那様は、ガレージから静かに階段を上がり、寝室に入ったそうです。着替えようと背広を脱ぎかけると、そこには酔っ払った見知らぬご婦人が爆睡中だったそうな。

素敵な奥様 <その3>
その奥様は、シアトル5年目。なのに、いまだに洗濯機とドライヤーの動かし方を知らないという噂は本当らしい。

この奥様の階下で響く「ご飯だよー!」の雄たけびは、炊飯器でご飯が炊けたお知らせです。それを合図に、旦那様はメールを途中でやめて、冷蔵庫から食材を取り出し料理を始めるそうです。8歳の可愛いお嬢さんは、お皿を並べる役割分担だとか。

素敵な奥様 <その4>
この奥様は、自分専用のシャンプー、リンス、石鹸をお持ちです。何に関しても無頓着な旦那様が、何も気にせずに使ったら非常にお怒りになったそうです。「使ったら匂いでわかるのだ!」と、脅されたそうです。

その奥様は、行きつけの美容院がありません。なぜならば、初めて会った主婦の行きつけの美容院の話を聞くと、ソワソワが始まり、早速電話で予約となるからです。奥様の髪型なんかにまったく興味がない旦那様に向かって、毎回「このカットも今ひとつネ?」

素敵な奥様 <その5>
●●奥様は、やせるためにとホットヨガを始めました。汗をかいて健康にも良いと言っておりましたが、ヨガにはまり込むほど、食が進むそうです。腰回りに以前より肉が付いてきたような気がしますとは旦那様。

●●奥様は朝、オーブンを開けて驚きました。チキン料理がそのままプレートの上に。と言うことは、前の晩、家族は何を食べたのだ? これだから、使いかけの同じ銘柄のマスタードが冷蔵庫に3個も入っても仕方がない。ちなみに使いかけのマヨネーズも3個ありました。「使い切ってから新しいのを買え」と小さな声で旦那様。

素敵な奥様 <その6>
この奥様は、電話好き。ご友人達はいつまで経っても通じない電話にしばしば痺れを切らし、彼女の携帯を鳴らします。その奥様は携帯が鳴ると『携帯が鳴っているから、あとで』と自宅の電話を切り、携帯に出ると今度はまた別の電話が自宅にかかります。ですから、どの受話器に向かっても「今電話中だから、後でかけなおす!」となるわけです。

その奥様は、夕方から深夜までの電話でお疲れなのか朝が苦手なご様子。お子さんを学校に送り出すと、お昼近くまで寝るらしい。「じっくり寝かせて成熟したビンテージもの!」とは旦那様の名言。

お気付きですか、6人登場いただきましたご婦人のなかで、上の●●奥様は、シアトルに住むお父さん(筆者)の愚妻のことでした。

<プロフィール>

横浜に長女と次女、ベルビューに妻と長男の5人家族。
1996年10月 英国現地法人JRC(UK)でパブ通い
2001年8月 新宿本社で歌舞伎町通い
2003年4月 名前だけのシアトル支店長
2004年4月 やっと自動車運転免許取得
2005年6月 お手伝い役の次女が本帰国
2006年5月 エバーグリーン男声合唱団入会

同筆者による記事のバックナンバー:2004年10月号 | 2004年12月号 | 2005年1月号 | 2005年3月号| 2005年5月号 | 2005年7月号 | 2005年9月号 | 2005年11月号| 2006年1月号| 2006年3月号 | 2006年5月号| 2006年7月号| 2006年9月号| 2006年11月号



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